新潟家庭裁判所長岡支部 昭和44年(家)426号 審判 1969年4月14日
申立人 岸本浩助(仮名) 外一名
主文
本件申立は、これを却下する。
理由
本件申立の要旨は、申立人等の氏「岸本」を「上杉」に変更するについての許可を求め、その実情として、申立人浩助は、○○寺の住職であるが、元来○○寺は四百年来上杉氏の祈願寺であつたため、歴代の住職は明治以来氏を許されてから先々住職、先住職とも上杉氏を称して居た。それ故、○○寺の由緒歴史から考えて住職の氏が上杉であると寺格その他信仰上も有利である。
なお本件申立については、所属真言宗智山派官長はもとより寺の所在地○○市長及び○○寺の責任役員においても同意して居るところであるというのである。
そこで審案するに、上杉大祐及び上杉秀光の各除籍謄本、上杉栄の改製原戸籍及び戸籍の各謄本、岸本浩助の戸籍謄本に家庭裁判所調査官の調査報告をまとめて考えると、申立人が住職をして居る○○寺は往年上杉輝虎の祈願寺であり寺禄を賜わり又輝虎公の遺墨等を伝え、上杉氏との因縁深い寺院であつたところから、明治初年同寺の住職大祐は氏を称するに当り上杉を同人の氏として戸籍届出をしたものであるが、同人がその相続人なくして明治三四年一二月九日死亡したので、その後任住職となつた細田秀光が右上杉大祐の家督相続人に選定され、大正五年二月二八日その届出を済して上杉秀光となり、大正一三年四月二三日死亡したため、その二男崇が同年五月一九日家督相続届を済したものであるが住職とならず、東京に出て会社勤めをして居るので、申立人浩助が上杉秀光の没俊大正一三年八月二六日後任住職に任命されたけれども、依然岸本浩助として今日に至つたものであつて、その間何も不便不都合なく過して居たものである事実が認められる。
なお申立事由とする○○寺の由緒歴史からその住職の氏が上杉であることが寺格その他信仰上有利であるというのであるけれども、もしそうだとすれば申立人浩助が住職に任命された時に当然考えつかねばならない筈と思われるのに、四〇有余年を経た今日に及んで突如本件申立をするに至つたのは、テレビ等の影響によるものとさえ考えられる。しかも本件申立の事由は戸籍法第百七条第一項にいわゆる「やむを得ない事由」に当るものと認め難いので却下することとし、主文の通り審判する。
(家事審判官 坪谷雄平)